Mさんと食事。学校が女子大のせいもあって、普段こうして男性とふたりで出歩く機会は少ないんだという。快活な表情のあいだにときおりするどい警戒の表情があらわれると、ぼくはすっかりあっけにとられて、グリーンサラダを咀嚼することも忘れてしまった。
 Mさんは読書、音楽鑑賞、映画鑑賞が趣味という知的(?)でブルジョワジー(?)な女性である。ぼくもその三つに関しては一家言を持つが、当然のことながら、その好みはまったくといっていいほど合うことはなかった。で、気づいたのだが、ぼくは書籍も音楽も映画も、死んだ人間の手になるものが好きであるらしい。それは意図的ではなく、あくまで結果として、そのような好みであるらしいのだ。
 たしか小林秀雄は「生きた人間よりも死んだ人間のほうが、はっきりとした人間の形をしている」というようなことをどこかで書いていたはずだが、しかしそれでもなお、ぼくは生きた人間のほうが好ましいと思うし、そう思いたいと願っている。


 帰り道、Mさんの手を握ってみると、死んだ人間のように冷たかった。低血圧なのかしら。



 無精ひげをきれいさっぱり剃り落とした。これで少なく見積もっても、三歳は若返ったはずだ。



 今年のうちに、時間を見つけて集中的に詩の勉強をしたいと思っている。年代的に、もしくは地理的にすっぽりと抜け落ちている箇所が少なくない。せっかくならば体系的な知識を身につけたいものだ。