車の衝突事故を至近距離で目撃した。破片が飛んできた。とおくで女の悲鳴があがった。そうして一瞬の沈黙が訪れた。双方の運転手が車から降りてきた。どうやら致命傷を負ったひとは一人もいないようだった。やがて周囲は騒々しさを増していった。その場から離れるとき、ぼくの背後で短いながらもすさまじい爆笑が沸き起こった。



 グリッサン「多様なるものの詩学序説」を読んだ。前にも一度読んだことがあるような気がするが、おそらくそのときは何の感銘も受けなかったのだろう。今回もとくに啓発されるところがなかったのだから。もっと直裁に言えば、不明瞭な箇所が少なくないにもかかわらず、その根本にある議論があまりに粗雑であるような気がして、最後まで警戒心が拭えなかった。
 人生は短いのだから、これからはどのような本でも、読んでいて何か疑惑が心をかすめることがあったら、その時点でいさぎよくページを閉じることにしよう。



 冬場のサーフィンに欠かせないもの。寒さに負けない根性。



 ぼくは人間の個性など信じない。信じないどころか、そもそもその存在すら怪しいものだと思っている。それに、よしそれが本当に存在しているとしても、人間が「何者か」であるということは、結局そのことによって、レッテルを貼られ、値段をつけられ、流通されることを意味するだけである。
 「何者でもない」ことは、もしかしたらひとつの勝利なのかもしれない。差異や多様性のもとに立ち現れる「関係性のアイデンティティ」はもはや不用な概念である。



 T病院の裏山にはキジが出没するらしい。そういえば、Kは以前あの付近でタヌキを轢いたことがあると言っていた。そんな話を聞いて驚きに近い感情を覚えるほど、ぼくらは動植物と疎遠な生活に慣れてしまっている。