今夜は月の真上にひときわ明るい星がある。金星がその正体のようだが、なんの気なしに夜空を見上げて、はっと息を飲んでしまった。まわりのひとは誰もそのことに気づいていないらしく、本当なら宣伝してまわりたいところだが、そこまでの勇気がぼくにはない。



 今朝の夢(脚色済み)
 ぼくは歩いている。ぼくの前には女のひとが歩いている。ぼくはそのひとの影を追って歩いている。ふたりのあいだに会話はない。そうしてぼくらは長いこと黙ったままで歩きつづけてきたのだ。道は茂みのなかをどこまでもうねり、木洩れ日が榴散弾のように降り注いでいる。どことなく海の気配がする。おそらく風が潮を孕んでいるのだ。ときおり音もなく茂みが揺れて、まばゆい反射を射しいれる。ぼくは前を行くそのひとの姿をけっして見ない。ただその影だけを追っている。ぼくはそのひとに何か伝えなければならないことがあるのだが、どうしてもそれをうまく切り出せずにいる。そしてぼくは、そのひとがそうしたすべてのことを承知していることもまた知っているのだ。やがて茂みが濃くなり、それでも影は黙ったまま歩きつづけ、ぼくは胸が苦しくなりながらも、やはり黙ってその影についてゆく。ぼくらはいわば深海魚を真似ているのだ。影が立ち止まった。ぼくは顔を上げ、はじめてそのひとの姿を見る。するとそのひとは巨大な一輪のダリアなのだ。そしてぼくは、自分がそうしたすべてのことをあらかじめ承知していたことを知らされるのだ。どうしてあなたはそうやって知らないふりをするのですか。



 Sからの電話。前立腺マッサージについて延々と15分。こっちは風邪気味なんだぜ。