エドワード・ギボンが「ローマ帝国衰亡史」を出版した際、
グロスター侯爵はこう言ったという。
「またまたバカでかい本か、ええ、
 書いて、書いて、書きまくっているというわけですね、
 君は他にやることがないのかね、ええ、ギボン君?」



一冊の書物を前にしたとき、ぼくがまず心をうたれるのは、
たしかにそこにひとりの人間が存在し、
たとえそれが高級であれ低級であれ、
一個の生きた精神がこれらの文章を書いたという
あまりに明白な事実についてなのである。
ひたすら原稿用紙のマス目を埋めてゆくということは、
簡単そうに見えて実は才能と技術と習慣の力を必要とする。



もっとも、天才は努力を発明するのであってみれば、
白紙の紙を前に苦吟する点では凡才となんら変わりがないのであろう。


要するに、どのように生まれつこうとも、
困難や障碍から逃れることはできないということだ。
だが、このようにしか生まれえなかったものにとって、
そんなことはたいして慰みにならない。



食事をしていて、ウンザリするもの。
貯金の話をしたがる女。